介護離職防止と小規模多機能居宅介護の関わり

<日本の介護離職の実態>

 

 現在、日本には、390万人が介護離職の危機に直面していると考えられている。その介護離職の最大の問題点は、経済的に困窮することにある。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では、介護離職者のうち74%が経済面の負担が増したと回答している。仕事を辞めて収入が減ったことで、使える介護サービスを絞らざる終えなくなり、結果、肉体的にも精神的にもストレスがかかり、介護が必要な両親ともに、共倒れになる事例も多くある。再就職すればよいと考える人もいるが、介護離職者のうち、再就職できる人は43.8%にすぎず、年収も半減することが明らかになっている。また稀に、介護離職をしても、介護をしている間は、両親の年金や財産で生活できることもあるが、両親を看取ったあとは、無職の本人だけが残り、公的年金に頼って生きていかなれればならないことを忘れてはならない。介護離職により、現役世代の収入が減っているため、原則65歳以降から受け取れる公的年金の額も減っている。つまり、介護離職は、一生涯で受け取れる収入全体を減らす危険性をはらんでいるのだ。 


<介護離職経験者への取材>

 北海道札幌市にて在宅の介護事業運営に関わっている。身近にいる介護関係者の人脈を借り、介護離職経験者で直接取材に協力してくれる家族を探した。しかし、対象者は数多く現れるものの取材の許可は、なかなか得られない状態であった。その詳細な理由は確認できていないが、おそらく介護離職というネガティブな社会問題を他者に知られたくないとの思いではないかと、筆者は推測する。 


 介護離職経験者での取材を諦めかけていた時、介護関係者より「電話取材なら…」とのことで2つの事例を紹介された。ともに、取材対象者は介護関係者でかつ共働きの女性側であり、計画的な介護離職で、深刻な経済的問題はなかった。しかし、深かったのは、共通して「小規模多機能型居宅介護(以下:小多機)を使いたかったが、使えなかった。」と口にしたことだ。介護関係者かつ介護離職経験者の2人から同じ話しが出たことに筆者は驚きを感じた。現在、介護離職に悩まされている方に対して、その小多機と言われる介護事業所の魅力をまとめてみたいと思う。


   1人目に取材した54歳A子は、介護福祉士として介護施設で働いていた。しかし、同居する義母が、認知症の進行による近所とのトラブルが心配となり、昨年12月に介護離職をした。A子は、残念そうに「介護離職前から小多機を利用したかったが、(A子の住まいの)周囲に小多機がなく、利用を諦めた。」と語った。  2人目に取材した59歳B美は、居宅介護支援事業所で介護支援専門員として働いていた。しかし、昨年12月に認知症の実母の介護を理由に介護離職をした。実母は、約3年前よりサービス付き高齢者住宅に入居していたが、入居当初よりB美が面会にいくたびに、「ここ(に住むの)はもう嫌だ!」と嘆いていたという。実母の思いを尊重したいと、今年1月、自宅を新たに新築して、一緒に同居し始めた。その際、小多機の申し込みの問い合わせをしたが通いの日数制限で利用できず、「(小多機の利用を)なくなく諦めてしまった。」と語った。  


<小多機とは>

 2人を惹きつけた「小規模」とは何なのか。 

   小多機とは、利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の選択に応じて、「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組合せ、家庭的な環境と地域住民との交流の下で日常生活上の支援を行う在宅サービスである。2005年に制度化された比較的新しい介護サービスであり、介護専門職の中でも、正確にその機能や役割を説明できる人は少なく、一般の方々が、小多機の存在を知らないのは当たり前と言える。 A子は、小規模の長所を「小多機の最大の長所は、幅広い日程や時間帯で多様な介護サービスの利用ができること。また(要介護度により料金は変わるが)介護サービスをいくら提供しても利用者が負担する料金がほぼ一律であること。」と語った。 介護離職を防止するには、当たり前だが、仕事と介護の両立ができる環境が必要である。幅広い日程や時間帯で多様な介護サービスの利用が可能な小多機は、利用者家族の不規則な仕事スケジュールに、迅速かつ柔軟に介護サービスを介護事業所側が合わせることができる。また、利用者家族が親の介護をしながらでも、なんとか仕事を続けるのは、介護離職の実態で先述したように、経済的な理由がほとんどである。小多機のような介護サービス提供量にかかわらず、利用者が負担する料金が将来に渡り予測しやすいことは、介護離職に脅かされている家族にとって大きな安心につながるのだ。


<介護離職防止の一選択肢へ> 

  

 現在、介護離職しようか悩んでいる方、またすでに介護離職した方は、今一度、自分の住む周囲の小多機を調べてみてはいかがだろうか。最寄りの包括支援センターや担当のケアマネージャーに相談してみるのも良いと思う。余計な話しかもしれないが、相談をする際、小多機の説明ができない介護専門職が一定数いることも、しっかり頭に入れておくべきだ。ここまで介護サービスが複雑になっている昨今、小多機を説明できるか否かで勉強している介護専門職と、そうでない介護専門職を見分ける基準にできるといっても過言ではない。 介護離職防止において正しい情報収集と正しい介護事業所選びは必須である。安心して仕事と介護を両立できる生活の一助になれば幸いである。


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